酒井はなインタビュー
20130523

バレエ・ダンサーとして活躍する酒井はな。本業のバレエとは全く違ったクリエーションをすることになる今回の公演に対し「小道具などを使わず、身体だけでできることをやってみたい」という意気込みや、パートナーの島地保武さんとの制作の難しさや面白さについて語ってくれた。
インタビュー : 金七恵

  • 金七恵
    本日はよろしくお願いします。さっそくなのですが、酒井さんにとって、島地さんとのお仕事は、どういうものなんでしょう?

  • 酒井はな
    島地さんとお仕事をするには、沢山アイデアを出すことが必要なんですね。
    私の仕事のパターンは「こういう役で、こういうシーンがあって、こういう風に踊って欲しい」というのが事前にあるんです。そこから、「この役だったら、こう歩くだろう」と役を作っていくのが私の腕の見せ所です。
    でも、彼と仕事する場合は、役も全然なくて、舞台上でも私自身のままでいいんですね。それで、体の使い方とか敏感にしないといけないのが、面白いし、新しいことにチャレンジさせてもらう感じですね。

  • 金七
    普段とは全く違った作り方になるんですね。酒井さんは今回の制作に入ってくスタンスは、何かありますか?

  • 酒井
    彼とやる場合、私がコンテンポラリーに寄っていくことの方が多いんですが、今回、彼は私に寄ってこようと思ったらしいです。それで、バレエのデュエットをやってみようということになって「白鳥の湖」のグラン・アダージョをやりました。 彼は、「すごく難しい」と言って、背中がピンっとしちゃって動けなかったりしたんですが、この取り組みは、彼にとって良いことだと思いました。ピンとしたバレエの動きもダランっていうコンテンポラリーも、どっちもできたらいいと私は思うんです。

    島地さんから私が学ぶことがいっぱいあって、島地さんは私から学ことがあって、その2人でどういう風に出来るのかなっていうのがいまだ未知ですが、沢山、模索していきたいです。

  • 金七
    酒井さんの中に、今回挑戦したいと思っていることはあるんでしょうか?

  • 酒井
    言い方が難しいんですけど、自由に感じる、その自由の中の自分を信じてみたいと思っています。

  • 金七
    それは、バレエの型のある動きとはまったく違うことですよね。

  • 酒井
    そう。自分の体の言っていることを信じるということを、気負わずに、島地さんと出せるといいな、と思っています。
    普段は、事前に演出やフリ(振付)を練って、練習を重ねて舞台に立つことが多いんです。
    今回は、練習でフリは作ってくんだけど、そのフリがまるで即興のように見えたらいいなと思っています。瞬間をキャッチする力を感じられたらいいなと考えています。

  • 金七
    島地さんとのやりとりでは、どういったお話をするんでしょうか?

  • 酒井
    今回は、まず全体におけるテーマや、動きのアイデアを出してあって、そこから「ズレ」というキーワードが出てきました。それで、体がずれるとか、斜めであるとか、バレエのオンバランスでまっすぐなのではなく、「おっととと」ってよろける感じとか、手がブラブラするのを、彼がリクエストしてきていて、よく分かんないですけど、そういうのをやっているんですね。

    私自身、いろんな作家の人と仕事するけど、「こういうことを要求しています」とダイレクトにもらえると、こちらはすごく楽なんです。島地さんみたいに「こういう感じの・・・」というニュアンスだけだと、難しい。でもそれに対して「こうかな、ああかな」と模索するのは、すごくいいトレーニングだな、と感じています。いろんな投げかけられ方をして、それに答えていくのはすごく勉強になりますね。

  • 金七
    それは、ものすごく難しそうです・・・。
    沢山のことを島地さんから投げられているとのことですが、逆に酒井さんから、島地さんに投げたいことはあるんですか?

  • 酒井
    意外と無いんですよね。私がやると、全部、バレエ・スタイルになっちゃうから。

    やっぱりコンテンポラリーでもスタイルがあるんです。
    私は、島地さんのスタイルを上手く出せたらと考えています。だけど、島地さんは「島地スタイルって何?と聞かれたら、無いって答えるからね」っていうわけです。「こうじゃなきゃいけないスタイルっていうのは僕には無いんだ」って言ってくるんですね。だから、掴みどころがないのね。だけど、彼の場合、本当にダンスが好きだっていうのが踊りから分かるのが彼の魅力かな、と思っています。
    夫婦として共有している物以外に、舞台の上で共有できたらいいな。そこが楽しみです。舞台上で、ダンサーとして彼と沢山会話ができるようになるのが夢です。

    ただ、私が提案しているのは「ダンスで見せたい」ということですね。身体を本当に芯から使う。身体の隅々まで意識を通わせて踊りたいと、二人でよく話します。
    やっぱり、私は無心に踊る姿に感動するんです。何かテーマがあって、というのではなく、人間が踊り対して誠実になって踊っている様って、理由なしにグッとくるなと思っています。そこで、2人で倍になる力が発揮できたらいいな、と思っているんです。

  • 金七
    それはお二人の中でのコアな部分のように感じました。

  • 酒井
    王道っていいな、と思っているんです。彼は空間や道具を使って演出するのが上手いけど、2人で、身体だけで出来ることに挑戦してみたいです。王道もあり、いろんなニュアンスも見せたいですね。

  • 金七
    島地さんは酒井さんの既存の考え方の枠を外してくれる存在なんですね。

  • 酒井
    そうですね。彼の考えもどんどん変わりますしね。私が何かを提案してやってみると「ちょっと違うかなぁ」って、変化しちゃうんです。だから「これ作って、だめって言われたらどうしよう?」ってドキドキですね。

  • 金七
    お客さんとは、何を共有したいと思っていますか?

  • 酒井
    私はシンプルに、とにかくお客様に楽しんで頂きたいんです。今回は、私が島地さんと踊る大きなプロダクション、またアルトノイとしては初めての作品なんです。きっと皆さん楽しみにしてくれていると思うので、予想を裏切りつつ、期待をはるかに上回るものになればいいな、と思っています。そうするにはどうすればいいのかを考え続けています。

  • 金七
    失礼かもしれませんが・・・おふたりって本当に正反対ですよね。

  • 酒井
    そう、2人の間にもズレがあるから、彼とどうしようかって話した時に、やるべきことは合わせることかもねって言い合いました。
    「ズレているけど共有している」というのがテーマかな。ズレているから寄っていこうと思います。

    島地さんにとっても、私と仕事するのは、彼がいつもやっている人とは全然違うから辛いと思うんです。それを上手く料理してくれるといいなと思っています。
    反対に、島地さんが演出なんですけど、ダンサーとして手強いほうが、彼は喜ぶと思うので、私のニュアンスやフリをどんどん持ち出し彼に提案していって、困らせてみようと思います。

  • 金七
    そんなおふたりが、ひとつの作品でぴったり合うところを早く見てみたいです。

  • 酒井
    本当!普通だったら「この脚本家だったら、こういう風に来るだろうな、こういうイメージで来るかな」ってあるんだけど、それが全然わからないんです。どうなるか、楽しみです。

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