島地保武インタビュー
20130522

今回の作品で、演出・出演を担う島地保武。
「舞台が事故になって、お客さんのなかでグラッと何かが起こるような時間を作りたい」と言う彼の頭の中では、今、どのような舞台が描かれているのだろうか。公演に向けてのアイデアや、酒井はなとのユニット名「Atlneu」に込めた思いについて話を聞いた。
インタビュー : 金七恵

  • 金七恵
    今日はよろしくお願いします。
    まだまだ公演までかなり時間があるので、今回のインタビューでは、今、どういったことを考えているのか、を中心に聞きたいと思います。島地さんの中では、現在、作品はどういった段階なのでしょうか?

  • 島地保武
    いつも一緒に作品を作っていく人とのコミュニケーションから色んなことが生まれるんですが、まだ今回は一緒にやる人と会っていないんです。
    メールでやりとりは最近始めていて、アイデアとか出し合ったりはしているんですが、会って話さないとわからない部分もあるし、劇場の空間に入れば音の響きでも、また考えが変わるので、そこでその時にいろいろ応用できるように、色々とアイデアを出している段階です。

  • 金七
    具体的な「これ」というコンセプトではなく、人との関係性から作品ができるんですね。
    うーむ、今は、作品の1番大きな枠組みを作っているような感覚なのでしょうか?

  • 島地
    いま出しているアイデアから、どっかに飛び出しちゃうかもしれません。その反発出来る土台みたいものを、作っているところです。それに反発するかもしれないし、向かっていくかもしれないし。向かったら反発するかもしれないし・・・。

    でも、「踊ろう」とは思います。最近、踊りの根本的な部分、衝動で踊っちゃうという部分が大事だな、と考えています。

    最近のコンテンポラリー・ダンスはコンセプトに収まった頭でっかちなものが多いと思っているんです。

    特に今の日本で、人々がみたいと思うのは、コンセプトを超えた身体とか、コンセプトに収まりきれずはみ出てしまうどうしようもないアナログな身体や、熱いストレートな表現だと思います。
    どうしても、いわゆるコンテンポラリー的なものは「ツイストして、ツイストして」となってしまうので、ひねりすぎて言いたい事が伝わってこない。
    僕は、すとんとストレートな「踊る」ということが本当はやりたいな、と思いますね。

  • 金七
    最初、「一緒にやる人とのコミュニケーションから作品ができる」とおっしゃっていたとき、「えっ、そんな作り方があるんだ」とびっくりしたんです。それは、私自身がコンセプトから作品を作っていく、という考え方にどっぷり浸かっていたからなんですね、今、気づきました。今回は、そこを飛び越えていく試みということですね。
    他にはどういった所から着想を得て、クリエーションをしていこうとお考えですか?

  • 島地
    今回、一緒にクリエーションする酒井さんは妻ですが、彼女との間にはどうしてもドイツと日本という距離があります。それで、SkypeやFaceTimeで話すんです。その時に、時差があるから、画面の向こうが明るくてこちらが暗かったり、音声がたまにとぎれとぎれになるし、発した声がそちらに届くのも実は時間がかかっていると思うんです。そういうところから、「ズレ」という最初のアイデアが生まれました。

    だけど、ずれたことがしたいんじゃなくて、ずれたら戻る、ズレを修正する作用について考えています。
    Skypeなど距離を縮めるために便利なものが生まれたけど、実際の距離はあるままですよね。ただ、実際の距離を超えられるのは考えや、意識、心しかないな、と思っています。
    体も、怪我をしたら、治ろうと思っていなくても治ろうとする。つまづいても、立て直そうと体が反応する動きが面白いなと思っています。
    オフバランスですね。
    ギリギリまでオフバランスになり、身体が反射的にオンバランスになろうとする危険回避の動き。

    これは80年代にフォーサイス等がすでにがやっていることなんですが、それを改めて、今、やるのもいいんじゃないかな、と考えています。

  • 金七
    実際に、酒井さんとのコミュニケーションから、作品が立ち上がってきているんですね。作品作りにおいては、お二人はどのような関係性なのでしょうか。私生活でもパートナーで、作品も一緒に作るというのは、難しそうなイメージですが・・・。

  • 島地
    酒井さんと僕は真逆なんです。
    僕は新しいものにすぐ関心が行ったり、引越しも多いし、1ヶ所に定住できないんです。やっていることも僕はコンテンポラリー・ダンスですし。
    反対に、酒井さんは、1個のものを大事に、一箇所に留まれるんです。
    30年間同じ所に住んでるし。クラシック・バレエをやっている。
    だけど、僕は古典というものをとても尊敬しているし、古典を通じた上で、新しいところに行きたいと思っています。ユニット名のアルトノイ(Altneu)にもそういう意味が込められています。

  • 金七
    おぉ、お話を聞けば聞くほど、本当に正反対・・・。そんなお二人での作品作りの進め方はどういったものなんでしょうか?

  • 島地
    今回は、まず今回は僕が振り付けるということではなく、酒井さんの方に寄っていこうと考えました。
    酒井さんが僕のアイデアです。
    酒井さんが得意とするのは、先ず振付や音楽、設定、キャラクターがあって、その中で、演じていくことなんです。
    僕の場合、フォーサイス・カンパニーでは、新作を作っていきます。
    音楽はよく分解されているし、振付も分解して使うし、ドラマ設定というものはなくて、ダンサーが勝手にストーリーを持って踊ります。

    つまり、2人がそれぞれ毎日やっていることが大きく違うんです。それで、今回、初めての試みとして、『白鳥の湖』のグラン・アダージョを、2人で本当に踊ろうと思って、そこからクリエーション入りました。

  • 金七
    最後に、公演に向けて意気込みなどありましたら、お願いします。

  • 島地
    「ズレる」ということはすごい事故だったり事件だったりすると思うんです。お客さんには、見に来て、「舞台をみて良かったな、素敵だったな」というよりも、舞台が事故になって、お客さんのなかでグラッと何かが起こるような時間にしたいなと思います。

    すぐ忘れられるものじゃなくて、引きずっちゃうようなものにしたいんです。見ている人が「うわぁっ」となるようなものを作りたいですね。それには、僕たちが「うわぁっっ」ってなってないとね。そういうギリギリと所でいたいなと思います。

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