蓮沼執太インタビュー
20130804

本作品の音楽を担当する蓮沼執太。8月上旬に行われたインタビューでは、徐々に形の見えてきた公演の構成に対して音楽はどのように答えるのか、何を意識して作曲しているのか語ってくれた。
インタビュー : 金七恵
協力 : Little Nap COFFEE STAND

  • 金七恵
    今日はよろしくお願いします。蓮沼さんは、すでにアルトノイの稽古は見に行かれたんですか?

  • 蓮沼執太
    実は、楽曲が早い段階で完成すると思っていたんですけど、なかなか完成せず、まだ稽古に行ってないんです。ある程度、楽曲が具体化できてから伺おうと思っています。
    記録映像はもちろん見ていますが、まだ生でダンスを見ていません。僕が送ったラフの音楽を使って、島地さんが練習しているそうなんですが、音楽とダンスがどのようなバランスで作っているのかも、まだわからないです。

  • 金七
    そういう状況なんですね。
    島地さんは、ほとんど海外にいらっしゃいますよね。どんなやりとりをされていたんですか?

  • 蓮沼
    やりとりは、4月位から、メールを中心にやってきました。
    島地さんの中には「こうしたい」というイメージがある感じがします。そのイメージの伝え方がユニークなんですよね。ポエトリーになったら、急に現実的になったり、いきなり音楽的な事を言ってきたりするんですね。いろんな伝え方の言語を持っている人だな、と思いました。非常に素晴らしいです。例えば、夢の中のような世界観がある「鯖の女」というフィクションを書いて送ってくれました。僕は、それを読み取って、どういう色なのか、どういう質感なのか、ということをあれやこれやと考えるんですけど、それだけで精一杯になってしまいます。今の段階では、僕から何かを返すというより、島地さんが伝えてくれているイメージや物語を、一生懸命読み取っている状態です。僕がコンセプトを提示するよりも、島地さんから提示してくれたものを、僕が理解していく、という作業の繰り返しですね。

  • 金七
    いろいろな要素を島地さんから、蓮沼さんに届いて、それを解釈していくような感じなんですね。
    今回の公演の「ズレ」というテーマを、蓮沼さんはどう捉えていますか?

  • 蓮沼
    恣意的にズレを作るというよりも、作っていく時に自然に出てくるズレを大切にしておけばいいと感じています。
    作っているうちに当然エラーは出てきますが、通常だとミスとして判断されて、エラーは排除されがちですよね。だけど今回は、いつもならクリーンにしてしまうところを一歩立ち止り、エラーを吟味してみようということだと思います。多分、ズレというのは違和感のことだと思ってます。実際に音をズラしていくというような、そういう物理的なことではなく、コンセプトとして理解しています。

  • 金七
    いなるほど。音楽がダンスに影響する、ということもあると思いますか?

  • 蓮沼
    音楽は多彩な要素があります。例えば、音色ひとつで「悲しいんだ」と聴いている人に思わせる言葉的な要素があるんです。島地さんに「こうきたか!」とか、「そうきたならば、こうしたい」と思わせる影響はあると思いますよ。そうなると良いですね。

  • 金七
    それは、先ほどの「ズレ」と通じるところがあるような気もしますね。
    公演自体は2部構成だそうですが、音楽は、どのようなものになっているんですか?

  • 蓮沼
    前半はとても抽象度の高い物語です。なので音楽も、ほぼ「音」。音の連鎖のコンポジションを意識してます。
    あらゆる音を使おうと思っているんです。
    当たり前の話なんですが、設定されたある時間の中で音を並べると音楽になるんですけど、聴いても「これが音楽だ」というのが分かりづらいですが、抽象度の高い音楽になります。

    後半は、パ・ド・ドゥというバレエの様式があるんですが、これを新しい視点から捉えなおそうとしています。「アルトノイ」という名前の通り、古いものと新しいものを、同時に考えていくというのが、パ・ド・ドゥにチャレンジしてみることだと思ってます。表現者にとって新しい方法論に挑む時、僕は常に肯定的でありたくて、島地さんの姿勢はメールでもバシバシ伝わってきます。構成の上では、前半は抽象度が高く、後半は具象度が高い。後半はバレエ曲ということで、ピアノをメインに使って演奏しています。

  • 金七
    今回の音楽を作るうえで、蓮沼さんが意識していることなどありますか?

  • 蓮沼
    映画でも音楽でも美術でも何でもいいんですけど、これだけ情報のある社会で、何か古いものでも、ある人にとってはそれと出会ったのが現在だから、その人の中で、その古いものが新しいものに換算される時代ですよね。最近は益々その傾向が強くなっています。だから、皆の中でそれぞれ新しさや古さ、新鮮さと懐かしさは違うのだと思います。そういった環境の中で「物事を再解釈してやってみる」ということを意識しているだけでも、ちょっと見方や作り方がナチュラルに変わると思うんですね。大切にしたいですね。

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