さとうみちよインタビュー
20130712

今回の公演の衣裳を手がけるさとうみちよ。酒井はなの衣裳合わせの日に行われたインタビューでは、演出の島地保武からのオーダーである「アニマル」、「パジャマ」を具体化する過程について、また、普段あまり聞くことのできない衣裳製作の裏話を語ってくれた。
インタビュー : 金七恵

  • 金七恵
    今日はよろしくお願いします。
    私、衣裳の方のお話を伺うのは、ほぼ初めてなんです。

  • さとうみちよ
    普通そうですよね。
    私も、普段は裏方なので、このようなインタビューを受けるのは初めてです。

  • 金七
    今日が酒井さんのフィッティングということは、ほぼ、形はできているんですか?

  • さとう
    今回は2着作ることになったんです。
    1着が普通のいわゆる衣裳のようなもので、もう一方が全身タイツです。全身タイツの方は、「アニマル」というお題を島地さんから頂いて、いろんなパーツをはぎ合わせて作ります。なので、サイズの衣裳合わせをしてから、実際に布をはぎ合わせるという2段階が必要になるんですね。今日は酒井さんの全身タイツのサイズ合わせを行います。ここで、本人に合う形で切り替えができているか理解してから、次の工程に入ります。

  • 金七
    そういうふうに、いくつかの段階があるんですね・・・。
    島地さんとお仕事をされるのは初めてとのことですね。どのように進めているのでしょうか?

  • さとう
    今回、島地さんがドイツにいらっしゃるので、メールやスカイプで、たわいない話をする所からスタートしました。
    もちろん作品の話もするけど、それ以前に、性格や、好きな物についてとかの普通の世間話から入ったんです。お互いにどういう感じのことを考えているのか、探り探りでしたね。

    衣裳についてはなるべく「イメージしていたのは、こういう感じじゃなかったのに」ってすれ違わないように、随時、サンプルを写メで送ったり、スカイプで画面越しに「どう?」と経過を見せて作業を進めています。言葉で話しても、それぞれの中にあるイメージがずれている場合があるので、なるべくお互いが見える状態で作業するようにしています。
    島地さんは直感的だし、こちらが出してきたものに反応する人なので、言葉やアイデアを投げ合いながら、距離を詰めて落とし所をつけていく感じですね。

  • 金七
    全身タイツについて「アニマル」というオーダーがきたとのことですが、島地さんからの投げかけに、どういう風に答えようとされていますか?

  • さとう
    今回は島地さんが描いた衣裳のイメージイラストもいただいたんです。雰囲気があるとってもいい絵ですが、現実化すると、ちょっと難しいかな、という感じだったんです。衣裳の立場からみると、ダンサー本人の体も綺麗に見せないといけないですし、全身タイツは、かっこよくなるかダサくなるか紙一重なので、その辺りをどうやって着せようかなということを考えました。

    あとは、ちょっと前のモダンバレエとかのタイツの感じじゃないのを目指しているのは、話を聞いていて分かったんです。あれも、体の線を見せたいというところから来ているんですけど、「アニマル」というオーダーでが来たので、ちょっと違うのかなと思いました。肌にピタッとしちゃうと、自分のようになります。
    だけど、今回は「ズレ」というテーマもあったので、肌を見せる部分や、布が重ねている部分を作っていて、私の中では「かさぶた」というイメージで作っています。体の一部でもあるんだけど、下に新しい皮膚が出来ている、「皮膚なんだけど、皮膚じゃない」という意味でかさぶたのイメージです。

  • 金七
    もう一着の衣裳は、どういったものなんですか?

  • さとう
    こちらは「パジャマ」というお題がきたんです。
    最初、私のイメージは、全身タイツの方は体にぴったりしているし、ユニセックスな感じになると思われるので、パジャマの方は、ユニセックスじゃない方がいいのかな、と思いました。それで、たたき台として、酒井さん用にネグリジェのようなデザイン画を描いて送ったんです。そしたら「そうじゃないよ」ってきたんです。島地さんの中にあったパジャマのイメージは、体のラインが出ない、だけどブカブカじゃないという服だ、ということがやりとりの中からわかってきました。踊るから、あんまりスタイルを悪く見せられないですよね。動きが見えるけど、ぴっちりではない。そういう意味でパジャマなんですね。

  • 金七
    小物はどういったものを使うんですか?

  • さとう
    「へそロープ」というものを作っています。先端にデコボコの塊がついる長さ12mのロープなので舞台のほぼ横の長さ一杯ですね。

  • 金七
    えっ、そんなに大きなものを使うんですね!「へそロープ」と名づけていますが、これは、どういうリクエストできたんですか?

  • さとう
    これは、星座の魚座のマークで描かれている魚と魚のしっぽがつながっているイメージや、名前そのままのへその緒のような、「つながっている」というイメージです。
    とりあえず、まずは「ロープを使いたい」という話が来て、それとあわせて、イラストが島地さんから、ダァッと沢山送られてきたんです。そこから、ロープの先端はどうしようかという話をして、ブツブツ、ボコボコしているのがいいという話だったので、こんな感じかな?と作っていきました。

  • 金七
    毎回毎回、本当に沢山イラストがくるんですね。それらは、どう精査するんですか?

  • さとう
    資料全体から、全体的な雰囲気や、こういう世界観が好きなんだというのを知っていきますね。そこから、へそロープの場合は「先端に使うのは、このイラストのこのディティールどう?」と話を進めました。それに対して、島地さんも「イラストの中のこのイメージ」って言ってくれたりしました。

  • 金七
    今回はダンス公演の衣裳製作ですが、他のジャンルの衣裳製作と比べて「ここが違う」という事ってありますか?

  • さとう
    ダンスの衣裳は、着て踊る所までいかないと終わらないんです。それに、舞台に立ったら、また違ってくるんです。動きやすさもありますしね。芝居とかの場合は作って納品すれば、その後は大きなことはないんですが、ダンスの場合は、踊ってみて初めて「ここが違う」という事があるんです。フィッティングで調子がいいと思っても、踊ってみるとすごく滑るとか。あとは、いつも負荷のかかる場所があったり、足が引っかかりやすいところとか、やっているうちにビリってなったりしちゃうので、ケアが必要です。

    なので、私がメンテナンスまで担当するケースや、劇場の衣裳さんがいたり、ダンサー本人が直す場合など色々ありますが、演劇やオペラよりも衣裳の摩耗が多いというのが大変な所かな、と思います。

  • 金七
    最後に、今回、さとうさんが挑戦したいことを教えてください。

  • さとう
    今回の挑戦は、やはり全身タイツですね。アニマルという柄を載せているんで、平面構成に近い感覚で作っているので、どういうふうに行くか、チャレンジです。

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